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上海っ子AZUが早朝に見る夢の跡。


by azu-sh
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洗濯機のなぞ<中国ホームステイ⑫>

 サンへーパパたちの暮らしは至って簡素である。家具も電化製品もかなりアンティークな年代モノなのに、どれも大切に使い続けている。(テレビだけは例外。サンへーパパの定年祝いに息子がプレゼントした最新型なのだ。)
 この家に引っ越してきてまもないあづは、洗濯しようと思って小さな中庭をのぞいてみた。洗い終えた洗濯物を抱えてサンへーパパが中庭から出てくるのを既に何度か見ていたからだ。つまり、そこに洗濯機があるに違いない。しかし……あれ?中庭には赤い大きなたらいが置いてあるだけ。(じゃあ、公園に面した庭のほうかな)と思ってそちらものぞいてみたが、洗濯機なんて見当たらない。どういうことだろう?
 翌日、事実が判明した。土曜日で仕事がお休みだったサンへーママは、仕事着を洗うためにたらいを台所に運び、石けんと洗濯板で何やらゴシゴシ始めたのだ。(せ、洗濯板?この家、洗濯機ないのぉ?)あづは真っ青になった。洗濯板なんて生まれてこのかた使ったことないし、どう考えても服が傷みそうな気がする。洗剤に弱いから、きっと手もボロボロになる。それに仕事があってほとんど家にいないわたしは毎日少しずつ洗濯するなんて無理だから、できたら数日分まとめてやりたい。洗濯機がないのはかなり厳しい。
 仕方なく、あづは山のような洗濯物を大きな袋につめて背負い、近所のリサコさんちにお邪魔した。「すいません、洗濯機使わせてもらえます……?」

 日本や欧米だったらコインランドリーに行けば済むことだ。しかしここサンへーにそんなものを設置したらどうなるかは目に見えている。たぶん、服だけではなくありとあらゆる汚れ物を持ち込んで洗い始め、一家族で半日くらい占領し、そこを住まいとする人が現れ、洗濯機はそのうち動かなくなる。……ような気がする。以前短期間だけ中国の大学の寮に泊まったことがあったが、共同の洗濯機はやはり私物化されていた。誰も使っていないから今のうちと思いふたを開けると、真っ黒な水の中に汚いスニーカーが浮いていた。「公共のものを共有する」という概念に乏しいから、中国で無人コインランドリー経営は難しいだろう。
 それから毎週、あづは洗濯物を背負ってリサコさんちに通うようになった。全自動洗濯機ってすばらしい。怠け者のわたしがもし数十年前に生まれていたら、どうなっていただろう。

 数週間後の日曜日。あづが家に戻ると、台所は大騒ぎになっていた。真ん中にでん、と置かれた機械がぶんぶんうなっている。その周りで負けじと大声で話すサンへーパパとサンへーママ。「わーっ、洗濯機買ったんだ?」あづが明るい声で言うと、ママは言った。「もとからうちにあるのよ。普段は倉庫にしまっていて、家中のシーツを洗う時だけ倉庫から出して使うの。だって置く場所なんかないし、普段の洗濯物だったら手洗いで十分間に合うでしょう」……なんだ、この家洗濯機あったんだ。でも普段は倉庫に厳重に保管され、シーツを洗う時しか出番がない。それって、節約と言うのか?何か釈然としないあづは、やっぱり洗濯物を背負って全自動の世界へと通うのであった。
by azu-sh | 2006-04-19 13:26 | 「あづ」の中国ホームステイ