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上海っ子AZUが早朝に見る夢の跡。


by azu-sh
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氷の世界ハルピンで <コラム>

 今から何年も前、学校を卒業したばかりの冬にわたしは中国・ハルピンにホームステイをしに行った。ステイ先は高校生の頃から文通をしてきたある中国人の家。わたしと同世代の女の子と小学生の息子がいる、素朴な一家だった。
 一月のハルピンはマイナス二十度、三十度の極寒世界。小麦粉のようにさらさらな粉雪が風に舞う。街を流れる大きな川・松花江はがちがちに凍りつき、トラックでさえ上を通れるようになる。わたしはここで乗馬をした。冷たい氷の上を、風を切って駆け足する白い馬。わたしが口から発した言葉でさえ、声にならずに凍りついていく。頼りなさげな手綱を必死に握り締めて、振り落とされないよう気持ちを集中した。うっかり落馬したら氷の上にたたきつけられる。このスピードにこの気温。かすり傷ではすまされない。死にそうな思いをした氷の上での乗馬。翌日は腰が痛くて歩けなかった。

 ハルピンの冬の風物詩、氷祭り。氷の世界ハルピンで <コラム>_b0074017_12414227.jpgこれを見たくてわざわざ冬のハルピンを訪れたのだ。松花江の氷を切り出して大規模な作品が作られていく。壮観だった。しかし氷祭りの帰り道、わたしはひとり迷子になってしまった。ホストファミリーの人と一緒にバスに乗ったのに、ぎゅうぎゅう詰めのバスの乗り口からわたしひとりこぼれ落ちてしまったのだ。さぁ、困った。当時、中国語は簡単な文章を書ける程度でコミュニケーション能力はちっともなかった。でも帰らなければならない。わたしは道路に飛び出してタクシーを捕まえ、生まれて初めてひとりでタクシーに乗った。二言三言で行き先を伝えると、運転手さんのおしゃべりに時々それらしく相づちを打ちつつ、震えるひざを抑えながらステイ先の家に向かった。ホストファミリーはみんな真っ青な顔で警察に届けようかと相談をしているところだった。無事に帰ってきたわたしを見て全員でかわるがわる抱きしめてくれた。

 中国語を話せるようになりたい、そう心に決めた晩だった。
氷の世界ハルピンで <コラム>_b0074017_1242661.jpg

by azu-sh | 2007-02-02 12:52 | 「あづ」の一筆コラム