★2012年8月、およそ6年ぶりに中国上海に帰ってきました!このブログは「AZU」が綴る、上海(サンヘー)滞在記録。ワクワクの上海生活、まるごとお届けします。ほらね、生きてるってこんなに可笑しい★


by azu-sh
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2007年 01月 09日 ( 1 )

★この物語はフランスの作家サン=テグジュペリ著「星の王子さま」のオリジナル続編です。各国のさまざまな人が「自分の出会った王子さま」の話を書いていますが、これはあづと王子さまの出会いの物語。わたしの尊敬するサン=テグジュペリさんにご報告するかたちで書いた四年前の創作童話です。★

 その子の存在感といったら、まるで美術館の高価な展示品のようでした。あの「お手を触れないでください」という表示のある、たいていよその美術館から借りてきた、一点モノの貴重品です。それでいて綿あめのように白くて軽く、こうばしいにおいがしました。
 「こんばんは。」
 面識のない子供にはめったに声をかけない私がなぜ声をかける気になったのか、今考えても説明できません。ただその子がたいそう寂しげに見えたことは覚えています。そしてあまりにも場違いな所にいるように見えたことも。
 海岸沿いの国道の、絶え間なく吹き付ける潮風のせいで看板のさび付いてしまった、コンビニエンスストアの前で、私はその子を見つけたのです。近所の子供でないことだけは確かですから、
「おうちの人はどこ?」
なんていう、野暮な質問はしませんでした。第一、こんな時間(それは夜の十一時過ぎでした)に金髪の少年がひとりで買い物に来るでしょうか。
 そう、その子は収穫を待つばかりの豊かな麦畑のような髪をしていて、裏地の赤い緑色のマントをつけていました。もう十二月半ばだというのに、マントの内側は半袖でした。

 その日は、ロシア語の授業を終えてからふと遠回りをしたくなって、小さな山を周回している国道の海岸側をドライブしていたのです。授業が終わったのは八時ですから、確かに少し長めの道草でした。飲み終えてしまったペットボトルを捨てるついでにお手洗いでも借りようと、私はコンビニエンスストアに寄ったのです。
 「ぼく、ぼくとても寒いんだ。上着を猫にあげちゃったもんだから。」
 金髪の男の子はそう言うと、私の目をまっすぐ見て……いや、正確に言えば、私の目を通り越してその先にある波しぶきの砕けるテトラポットを見て、かすかに身震いしました。
 「ぼくには他にあげるものがなかったんだ。それにその猫、しっぽの毛がぬけていたから。ぼくの上着の袖の部分にしっぽを入れておけば、ほら、寒くないだろう。」
 その子が話しているのは何のなまりも感じない日本語でした。実際、私はその子がフランス語を話し出すのではないかと内心考えていたのです。私の知っている(と言っても私の方が一方的に知っているだけですが)彼は、フランス語を話すはずなのです。私のわかるフランス語は二、三の単語だけですから、もしそうなら少年と話せるこの貴重なチャンスをみすみす逃したことになります。だからその子が、私にわかる言葉で話してくれたことがうれしくて、胸が高鳴りました。
 「さあ、私の車に乗って。車の中なら海の風にあたらなくて済むから、ここより暖かいわ。そして私にきみの話を聴かせてくれる?」
 本音を言えば、私はその子を他の誰にも見られたくなかったし、他の誰にも声をかけさせたくなかったのです。ですから、男の子が私の目の向こうを見ながらうなずいてくれた時には心が小躍りしそうでした。

つづく
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by azu-sh | 2007-01-09 10:43 | 「あづ」の創作小部屋