★2012年8月、およそ6年ぶりに中国上海に帰ってきました!このブログは「AZU」が綴る、上海(サンヘー)滞在記録。ワクワクの上海生活、まるごとお届けします。ほらね、生きてるってこんなに可笑しい★


by azu-sh
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夜の南京路 <コラム>

 二ヶ月上海を留守にしていたら、無性にネオンに囲まれたくなった。
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 大きなコカコーラ、今夜も街を赤く照らしているのかな。
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 日本のテレビで天気図を見ていても、目で追っているのは上海。
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 新世界ビル。この中に小さなスケートリンクがあるって知ってた?
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 Stand here! と声をかけたら、笑顔で立ち止まってくれた。
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 帰りたい街がある。あづが恋してる街がある。
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by azu-sh | 2007-01-28 16:59 | 「あづ」の一筆コラム
 前々回、あまりに暇な休養期間をどう使ったらよいかいろいろな案を考えました。まだ数日しか経っていませんが、途中経過報告。

 今日は1の水泳をしてきました。700メートル泳ごう、と目標をたてて。でも25メートルプールだからいくら泳いだか数えるほうが大変だったりして。わたしは平泳ぎしかできないのですが、その道のプロなら10分程度で泳いでしまえる距離を一時間くらいかけてゆっくり泳いできました。なんだか爽快!また行ってこようっと。
 2の食事管理、毎日手帳に記録しています。でも献立を書き留めているだけなので、これじゃ食事管理表じゃなくてただの献立表になりそう。間食・過食を減らします!
 3の読書も毎日少しずつやっています。今日は通院日でいつも長時間待たされるので本を一冊もって行きました。でも珍しく二ページも読まないうちに名前が呼ばれました。ちょっと調子が良いせいか、今日から薬がほんの少し減りました。この調子!
 4は英語でしたね。景気づけに100円均一で小さなメモを買ってきて、何でもいいから一日一ページ英語を書いています。教科書はアメリカのホームドラマ「フルハウス」。英語音声で英語字幕を出しながら、おもしろかった言い回しを書いています。
 5の詩作はひとつだけ作ってブログ記事にアップしました。ちょっと暗かったかなぁ。(笑)6の散歩はプールに行かない日に、四キロくらい歩こうと思っています。ウォーキングですね。うちの目の前は川なので、堤防沿いにてくてく歩いてみたい。

b0074017_1842131.jpg …そして番外編の9は「ほどよく手抜きすること」。気分の乗らない日は一日中寝ます。最近毎日朝から眠いのでとことん、寝ます。今日の医師の話によれば、「治ってくると眠くなる」んだそうな。だとしたらうれしいことです。今の退屈も努力も睡眠も我慢も、すべてはうつと解離の再発を防ぐためにしているから。
 …と、今日はいつになく前向きなあづでした。
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by azu-sh | 2007-01-26 18:04 | 「あづ」の一筆コラム

詩・アイスのなぞなぞ

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緑の星の木の枝に
葉っぱはどれだけついてるの?
カロリー計算しながらも
どうしてアイスに手が伸びる?

大人たちの悩みや不安
いったいどこに出口があるの?
子供たちの怖れや難問
いったいどこに答えがあるの?

バニラアイスを食べながら
あたしはじっと考える 
アイスクリームは溶けたのに
あたしはなぜまだ生きてるの?

緑の星の木の枝の
葉っぱの疑問に答えてね
制限時間は無制限
ゆっくりじっくり考えて
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by azu-sh | 2007-01-24 15:54 | 「あづ」の創作小部屋
 今、わたしは仕事も用事も責任もない、カンペキな休養生活を送っている。一日中いや二、三日家から一歩も出ないこともある。ベッドの上で静かに考え事をしたり音楽を聴いたり、たまにパソコンをつないでブログを更新する程度。何かに夢中になれるほど集中力が続かないし、外で誰かと会うのもおっくうだし、人の多いところに行くとすぐに疲れてしまう。三食きちんと食べては寝るばかりなので、入院していた頃よりも一気に太ってしまった。これでは昔話に出てくる怠け者みたい。第一、健康に良くない。

 そこで、春までの計画を立ててみることにした。
目標・意義ある休養と健康づくり
あづの休養計画

1・水泳 体力づくりとダイエットのため市民プールに通う
2・食事管理 食べたものを記録し偏りのない食事を目指す
3・読書 手元にある本をじっくり読んで感想を書いてみる
4・英語 中国語の環境にいないのを利用して英語力アップ
5・詩作 自分の思いを物語や詩のかたちで表現してみる
6・散歩 音楽を聴きながらとりあえず外の空気に触れる
7・手紙 日々の出来事や考えたことを親友宛に手紙に書く
8・ストレッチ 体が汗ばむ程度の筋トレをして体力づくり

 う~ん、これ以上思いつかない。他に何がいいかなぁ…。
 よし、さっそくやってみよう。まず読書と食事管理は今日からできる。明日は水泳かストレッチかな…。自分にノルマを与えずに、でもせっかくの長期休養だから“何か”を始めてみよう。
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by azu-sh | 2007-01-22 12:30 | 「あづ」の一筆コラム
 こんにゃくを食べるたびに思い出すことがある。
 子供の頃、「こんにゃくいも」の存在を知らなかったわたしは、こんにゃくって柔らかくした石だと思っていた。硬い石からあのプルプルした食感がどうして生まれるのか、子供心に不思議に思ったものである。
 こういう思い込みなら他にいくらでもある。
 たとえばイチジク。子供の頃庭にイチジクの木があり、食べ頃になると父がもぎ取って食べさせてくれた。イチジクの中身はイチゴジャムだと信じて疑わなかったわたしは、これを瓶詰めにしたものがジャムとして売られているのだと思い込んでいた。

 子供の頃の思い込み、わたしは人一倍激しかったのだと思う。
 幼稚園の頃、「くればやしせんせい」が結婚した。新婚旅行でシンガポールに行き、しばらく幼稚園を休んでいたくればやし先生。ある日、園長先生が「みんなに“はしがやせんせい”をご紹介します」と言って結婚したばかりのはしがや先生をみんなの前に立たせた。仰天したのはわたしだけだったのだろうか。ついこの間まで幼稚園にいたくればやし先生と顔かたちが瓜二つ、まるでそっくりな先生がやってきたのだ。同一人物だということに気づくまでかなり時間がかかった。結婚すると苗字が変わる。園長先生はその説明をし忘れたのだ。
 小学校に入り、わたしは一年二組に入った。わたしはまず全員が一年一組に入り、勉強のできるようになった子から二組、そして三組へと進んでいくのだと信じていた。だから入学当初から二組に配属(?)になったことに優越感を覚えた。ただのアホである。
 一年二組では、担任の先生が子持ちだった。わたしは先生に家庭があるということが信じられなかった。先生はみんなまとめて先生の国に住んでいて、朝になったら学校へやってくる人たちだと思い込んでいたからだ。

 こういう思い込みの激しさの背景には夢見がちな母がいる。
 ある日、母親と手をつないで繁華街を歩いていた時、髪の毛を藤色に染めたおばあさんを見かけた。髪が紫色の人なんて、生まれてはじめて見た。びっくりしたわたしは母に「お母さん、あの人髪がむらさきだよ!」と小声で言った。母は平然として「ああ、あの人は宇宙人なのよ」と言った。
 …宇宙人を見てしまった…。興奮して心がどこかに飛んでいってしまったわたしは、胸のドキドキを抑えられなかった。今度見かけたら絶対にどの星から来たのか尋ねてみよう。そう心に決めたのは母のせいである。
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by azu-sh | 2007-01-20 14:05 | 「あづ」の一筆コラム
 上海に住んでいると、生水を体に取り入れないよう細心の注意を払わなくてはなりません。上海の水道水は独特なにおいがして、沸かしても飲む気になれない。注文して届けてもらう蒸留水もおいしくないし、衛生的に心配。
 日本の家ではとにかく水がおいしくて、コレはもう感動モノです。わたしの家は新鮮な井戸水なのでなおさら。何の浮遊物もない、透き通った冷たい水が飲めることがこんなに幸せだなんて。今飲んでいる抗うつ薬に液体のものがあります。病院の水道水で飲むとかなり苦味があるのですが、家の井戸水で飲むとなぜか甘くなるんです。不思議!
 体の大部分は水。きれいな水がきれいな体を作る。
 水がおいしいのって大切!

 サン=テグジュペリの「星の王子さま」の中の挿し絵。
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 箱根星の王子さまミュージアムにある、「王子さまの井戸」。
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by azu-sh | 2007-01-17 17:55 | 「あづ」の一筆コラム
 最近、上海で入院していた病院が無性に恋しくなる。
病院が恋しくなるなんてあまりほめられたものではないが、あの入院生活は終わってみるととても楽しかった。現にその間に自殺未遂もしたし、医師や看護師から大目玉を喰らったことも何度かあった。それでもわたしを取り巻く人たちはみな人間味があふれていて、とても優しかった。

 わたしの担当になった龙护士(龍看護師)。わたしは「一条龙」(一匹の龍)と呼んでいた。中国語で“一条龙服务”(直訳すると、一匹の龍式サービス)といえば、何から何までお任せあれという意味。わたしは何かあると「一条龙~~!!」と彼女を呼び出しては困らせていた。美人で色白な彼女はおどけた表情でいつも笑っていた。わたしが何をしでかしてもちっとも動揺せず、わたしの世話を焼いてくれた。

 入院仲間の美少女、英語名はYOKO。ヨーコなんて日本人みたいな名前。額に三日月形のくぼみのある、謎めいた中国美女だった。あづが退院する時、「あたしの持ってるもの何でもあげる。何が欲しい?」と問われ、「あなたの三日月が欲しい」と言ったらそれは無理だと力なく笑っていた。ストレート黒髪のきれいな、日本びいきの女の子だった。

 最初に隣のベッドになった小崔。少し悲しげな表情をした、若いママだった。わたしは彼女を笑顔にさせたくて思いつく限りのいたずらをした。毎晩大声で中国語の童謡「小蜻蜓(トンボ)」を歌うわたしに、彼女は笑い転げながら手で両耳をふさいで抵抗していた。わたしの症状が重くなりナースステーションの目の前の一級看護室に移された時、彼女は涙目で「早く元の部屋に戻ってトンボの歌でわたしを困らせてよね」と言ってくれた。

 そしてわたしの担当医だった女医さん。帰国後、こんなメールが届いた。
「ニーハオ!…あなたが退院してからずっとあなたのこと気にかかっているのでメールしてみました。あづさんが新しい医師の元で回復できるよう期待しています。先生はそのことを信じています。今後上海に戻ってきてもあなたが必要だと感じればここで治療を続ければいいのよ。先生の治療室はいつもここにあるから。忘れないでね

 個性的な面々、そこで出会ったたくさんの人間ドラマ。中国人のみんなから示された、たくさんの親切。わたしは一生忘れない。どれほど懐かしく感じても、わたしはもう二度とあの入院棟に戻ることはないだろう。一日も早く健康になって、みんなのエールに応えたいから。今後再会できるかはわからないが、わたしの記憶に刻み付けられた上海の病院での出会い。わたしの中国生活の大切な一ページになった。
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by azu-sh | 2007-01-15 09:24 | 「あづ」の一筆コラム
★この物語はフランスの作家サン=テグジュペリ著「星の王子さま」のオリジナル続編です。各国のさまざまな人が「自分の出会った王子さま」の話を書いていますが、これはあづと王子さまの出会いの物語。わたしの尊敬するサン=テグジュペリさんにご報告するかたちで書いた四年前の創作童話です。★

 長い間泣いていた私は、涙が塩からくなく、かすかな甘味があることに気づいてハッと起き上がりました。味を感じて目が覚めるとは、なんて変わった起き方でしょう。
 金髪の男の子は、もういませんでした。でも不思議と惜しいとは思いませんでした。あんなに自分だけのものにしておきたかったのに、彼が友達の猫のために責任を果たしに出て行くことも望んでいたのです。我ながらおかしなものです。

 私は左の後部座席から降り、車の後ろを回って運転席に戻りました。自分の車の左後部座席に座ったのは思えば初めてのことでした。だからいつも私しか座らない運転席が遠く見えたのです。
 家に着いてから、私は急いで就寝前の薬を処方どおりに飲みました。いつものように一度にたくさん飲んでしまいたいという衝動は感じませんでした。薬を飲んだ直後はひどく口が渇くので、コーヒーカップに水で冷ましたお湯を少々入れて、夜風の中に出て行きました。
 雲ひとつ見当たらない十二月の夜空は、砂漠ほどではないものの、いつにも増して星がたくさん見えました。そのうちのひとつがけたけたと笑い出すと、つられてその隣の星も笑い出しました。それが北の空でも西の空でもいっせいに起こりました。いつのまにか夜空は笑い上戸の星でいっぱいになってしまいました。それらはすべて、私のものでした。私は、飼いならされたのです。だからあの男の子がこのどこかにいると思った時に、星たちの笑い声が耳に届くようになったのです。

 サン=テグジュペリさん。これが、去年の十二月十五日に、私が死ぬのを延期した理由です。私には私だけの井戸があって、それを他の人に譲るわけにはいかないのです。他の人たちも自分で探しに行かないかぎり、井戸はもともとないままなのです。そして私はどうやら一足先にそれを見つけて、自分のものにできたらしいのです。
 私だけの笑い上戸の星が、あの中に確かにあるのです。ちょうどあなたがそれを見ては彼をなつかしんだように。その星は金色の麦畑のように身をくねらせながら、私に向かっていつでも笑っているのです。

おわり
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by azu-sh | 2007-01-12 11:40 | 「あづ」の創作小部屋
★この物語はフランスの作家サン=テグジュペリ著「星の王子さま」のオリジナル続編です。各国のさまざまな人が「自分の出会った王子さま」の話を書いていますが、これはあづと王子さまの出会いの物語。わたしの尊敬するサン=テグジュペリさんにご報告するかたちで書いた四年前の創作童話です。★

 海沿いのコンビニエンスストアの小さな駐車場は、次々に大型トラックが入ってきたため、一時満車状態になりました。男の子の視界は、私の車の左側に停まったトラックにさえぎられてしまいました。でも、私にはわかっていました。たとえそうだとしても、彼にはそのまた向こうの空と海が見えているのです。
 私は男の子から一歩も離れたくなかったので、車を移動させることをためらいました。ここからほんの数十メートル先に、海が見渡せる駐車場があることを私は知っていました。でも私は、一瞬でも目を離したが最後、彼が消えてしまうのではないかと怖れていたのです。運転席のシートに手をかけていながら、そこは私には遠すぎました。
 「ねえ、お願い。私を飼いならして。きみがキツネや猫にしてあげたように。」
 私はふと、自分でも驚くようなことを口にしていました。男の子の目が、また私に戻りました。
 「へえ!きみはおかしなことを言うんだね。きみはバラじゃないから覆いガラスをかぶせる必要はないし、ここは砂漠じゃないから真水は買えばいい。でもきみは井戸を探したいって言うんだね!」
 彼の言うとおりでした。私が何より望んでいたのは、私の井戸になってくれる人を見つけることだったのです。一度見つけさえすれば、私は砂漠で迷っても宇宙で迷っても、楽しい気分になれるはずなのです。私が冬の夜空を見ても楽しい気分になれないのは、私を飼いならした人が空のどの星にもいないからなのです。
 夜十一時四十五分。私が就寝前の薬を飲む時間はとっくに過ぎていました。家からの連絡も友人からのメールもうっとうしくて電源を切ったままの携帯電話は、助手席に放り投げたままでした。
 だまりこくったまま私の涙を目で追う彼は、裏地の赤い緑色のマントをはずして、私のひざにかけてくれました。それがいっそう私の涙を誘い、私は声を絞り出すように言いました。
 「わ、私にも……笑い上戸の星をひとつくれる?町の夜は砂漠の夜より明るいから、できたら少し大きめの星がいいの。鈴のように鳴る、笑い上戸の星さえあれば……。」
 マントもはずした半袖の男の子は、車の内装に興味を持った様子で辺りを見渡していました。彼の笑い声を聞くために何をしたらよいのか、わたしにはわかりませんでした。一度引っ込めた手をもう一度出して、体当たりするかのように私は彼の両肩をそっとつかみました。
 「きみが私の井戸になってくれたら、私はもう泣かなくて済むの。水がないから、涙を流すしかないんだもの。」
 男の子は動き出した隣りのトラックをちらりと見やると、言いました。
 「きみは水を買えると言ったね!近くに井戸がなくても真水は手に入ると言ったじゃないか!それなのに塩からい涙を飲むのかい?」
 トラックがウインカーも出さずに国道の流れに戻っていきました。男の子の目の前にはまた、十二月の夜空と海が広がりました。男の子は少し身を乗り出して、海を指差しました。
 「あれはもともと、きみの涙でできた井戸なのかもしれないね。出口からあふれて、たまってしまったんだ。塩からいから傷口に染みる。それが痛くて、また水が増えるんだ。ね、そうだろう?」
 意味がわかったわけではないものの、私はうなずきました。両目いっぱいにたまっていた涙が、行き所を失って男の子のマントの上に落ちました。光沢のあるきれいなマント、この子の唯一の防寒具を汚すのがしのびなくて、私は急いで涙をティッシュでふき取りました。
 「きみはちょっとだけぼくのキツネに似ているなぁ!キツネもぼくに飼いならしてほしいと言ったんだもの。簡単なことさ。ぼくの星があることを思いながら夜空を見上げりゃいいんだ。そうすればきみには全部の星が笑っているように見えて、きみだけの笑い上戸の星が持てるんだ。」
 男の子がそう言った時、私の心の中で小さな、それでいて激しい振動が起こりました。最初はいつもの副作用の頻脈かと思いました。あの薬には、厄介な副作用がたくさんあるのです。でも少ししてから、その振動が甲高くて、リズムが一定でないことに気づきました。
 それは、笑い声だったのです。黄金の麦のような髪をした男の子の、いつもの、いや最高の笑い声だったのです。

つづく
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by azu-sh | 2007-01-11 15:17 | 「あづ」の創作小部屋
★この物語はフランスの作家サン=テグジュペリ著「星の王子さま」のオリジナル続編です。各国のさまざまな人が「自分の出会った王子さま」の話を書いていますが、これはあづと王子さまの出会いの物語。わたしの尊敬するサン=テグジュペリさんにご報告するかたちで書いた四年前の創作童話です。★

 もちろん予想どおり、私のそんな気持ちが男の子に通じるはずもありませんでした。その子の体は冷えきっていて、小さな両手はマントを押さえていられないほどかじかんでいました。私が車のドアを開けると、男の子は後部座席右側におとなしく座り込みました。私は急いで左側に回り、男の子の隣、左後部座席に座りました。
 「ぼくはあの猫を見た時、わからないけどとても……とても昔のことを思い出したんだ。ぼくの友達、穴の中に住んでいたあの人だ。でもあの人はもっとしっぽがふさふさだったなぁ!」
 「猫もしっぽのけがが治れば、元のふさふさに戻るわよ。きみの上着にくるまっていれば、きっとだいじょうぶね。」
 金髪の男の子は、まだ私の目の向こう側を見ていました。車の左手のその向こうは、国道をはさんで、十二月の夜空と真っ暗な冷たい海が見渡す限り広がっていました。
 「ぼくが前に落ちた所じゃ、星がもっとたくさんあったんだ。五億よりたくさん、でも時々すーっと流れていくものもあったなぁ。ぼくの星がその中のどれなのかわからなかったけど、あの人は別にそれでもかまわないんだ。」
 彼の言った「あの人」が、ふさふさのしっぽを持っている「あの人」とは違うのだと言うことに私はとっくに気づいていました。私は言いました。
 「それは、あの空のどこかに確かにきみの星があるから。そうでしょう?」
 男の子は、私の問いかけがまるで聞こえなかったかのように話を続けました。それでいいのです。そのくらいは承知です。
 「猫は海の近くに行かないようにしていると言ったんだ。塩からい水は傷口にしみるし、飲んだらもっとひどくのどが渇くんだって。この近くに小さめの井戸がないか、きみは知らない?」
 彼の視線が初めて私の目をとらえました。
 「井戸があるかは知らないけど、きれいな真水ならすぐに手に入るわよ。きみが欲しいなら今すぐそこで買ってきてあげるから。」
と、私は店を指差しながら答えました。でも彼は、コンビニエンスストアの方を振り向きもせずに言いました。
 「ぼくじゃないんだ。水を欲しがっていたのは猫と、あの人だ。でもあの人は自分で井戸を見つけた。そしてぼくにも飲ませてくれた。……きみ、真水を買うってどういう意味?」
 反対に問いかけられた私は、頭の中で一生懸命気の利いた言葉を探しながら答えました。
 「ええと、つまり……ここはきみが前に降りた砂漠とは違うの。でもきみの猫が水を欲しがっているのなら、急いで持って行ってあげなくちゃね。きみが飼いならした猫ならきみに責任があるのよね。」
 男の子はまた私の目を飛び越えて、車窓から夜空を眺めながら言いました。
 「あの時も井戸は近くになんてなかった。ぼくたちは一晩中歩いて、ようや見つけたんだ。……井戸は探しに行かなけりゃはじめから無いんだ。ぼくの猫がまだ探しに行ってなければ、まだ井戸を見つけていないはずなんだ。」
 (この子は猫が井戸を探すのを助けに行くのかもしれない)……突然、私の胸の中に例えようもない孤独感が生まれました。私は男の子の金色の髪を見つめたまま、様々な言葉がくるくる渦巻いてからまっていくのを感じて、何も言えなくなりました。ただひとすじの涙が、まるで心の奥底からくみ上げたかのような水になって手の甲に落ちました。彼は私の涙を見て、驚いたように声を上げました。
 「あぁ、きみも泣くんだね!ぼくのバラもそんなだった!キツネもそうだ。ぼくの猫も泣いていたし、あの人だって泣いていたに違いないんだ。月明かりでごまかしていただけなんだ。」
 私はただ、彼の笑い声を聞きたかったのです。五億の鈴が天から降りてくるような、そんな心地よいはずの彼の笑い声を聞きたかったのです。

つづく
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by azu-sh | 2007-01-10 13:07 | 「あづ」の創作小部屋