人気ブログランキング | 話題のタグを見る

上海っ子AZUが早朝に見る夢の跡。


by azu-sh
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

もうやめていいよね <「あづ」の「うつ」⑥>

 月が変わり、あづの生活はますます加速していった。いや、生活が速くなっていたんじゃない。あづの速度のほうがみるみる落ちていた。走っても走っても前に進まない夢のように、わたしは何かに足をとられていた。まるで海で溺れて力尽きた子供のようだと思った。今はかろうじて頭が水面に出てるけど、次の大波が来たらもう抵抗のしようがない。
 夜の高速道路で車を走らせながら、涙がとめどなくあふれてきた。肩と背の不快感に身をよじらせながら、運転席にじっと座っていられないほどに痛む腰の後ろに腕を置いてかばいつつ、ぼんやりと一点だけを見つめながら運転していた。対向車のヘッドライトが目に刺さり、顔がまぶしく照らされるたびに吐き気が襲って気が狂いそうになる。呼吸が乱れ、続けて二度吸ってしまってはそのたびに咳き込む。頭に何度も激痛が走る。ただ涙だけが、壊れた蛇口のように流れ続ける。苦しい、お願い助けて。苦しい、苦しい……
 今どこを走っているのか、今何時なのか、もう何も目に入らない。前を行く車のテールランプだけを見つめ、機械的にアクセルを踏み続けた。死にたい。このまま死んでしまいたい。

 翌日もまた、時間になれば仕事に出かける。バイト先ではお客さんに笑顔で挨拶し、友達の相談ごとに付き合い、次から次に勉強を教え、自分のレッスンに通い、先生のギャグにみんなと笑う。周囲の目には「元気でお調子者のあづ」は健在のはずだった。しかし車に乗り込んで一人になると、抑えていた涙がドッと噴き出す。どこからこんなに水が出てくるんだろうと思うくらい、涙は滝のようにあふれ続ける。体のどの部分も、もうわたしのものではないみたい。道行く人がみな、ろう人形のように見える。町が全部、作り物に見える。
 どの瞬間、どこにいても、誰かに冷たく追い出されているような気がした。
 「いなくなれ、ここに来るな!」「お前なんか、いるだけで目障りだ!」
 そんな声が四六時中聞こえてくる。部屋の中で寝ていても自分の布団の中から追い出されているような気がして、そのうち耐えられなくなる。たいてい夜中の二時か三時には家を飛び出し、自分の車の中に逃げ込んでいた。車だけがわたしを受け入れてくれる。バックシートに身をうずめ、息をひそめ、夜が明けるのを待つ。
 頭をからっぽにして次の一分、次の一秒をやり過ごす。次の一秒を我慢するために、「一、二、三、四、五……」無意味にカウントを続ける。
 もうこれ以上、我慢できない。一体誰のため、何のために我慢してるの?もう誰もわたしのこと救えないというのに。来るべきところまで来てしまった。もう止めたって仕方ない。あの本読んだから、自分が「うつ病」だということはもう知っている。こういう体の痛みや心の重さも全部「症状」だってわかってる。だから何なの?それが何なの?
 つまり、今死んでも、それは自殺じゃない。「病死」になるってこと。

 絶望という大波の中で、あづはついに抵抗するのをやめた。今日で全部終わる。うまくいけば今日限りで、もう苦しいのは終わる。本当に、終わる。もう少し、もう少し……。
 ごめんねみんな、これまであづと仲良くしてくれてありがとう。あづは今日までがんばったんだよ。次の一分一秒を生きているために精一杯、がんばった。でも、もう限界。
 だからもう、やめていいよね……。生きるの、休んでいいよね……。
by azu-sh | 2006-04-09 00:12 | 「あづ」の「うつ」