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上海っ子AZUが早朝に見る夢の跡。


by azu-sh
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サンへーで姉ができた<中国ホームステイ⑪>

 サンへー息子のお嫁さんは、頭の回転が速く、話が生き生きとしていて、底抜けに明るい。だんなの実家に引っ越してきたステイ客が日本人だということを聞いていた彼女は、わたしに会うのを楽しみにしてくれていたらしい。「子供の頃、日本のアニメを見て育ったの。テーマソングとか、今でも歌えるよ。……てぃくてぃくてぃくてぃく、てぃくってぃく~♪あ~い~してるぅ♪」メロディーから推測するに、「一休さん」かと思われる。
 面倒見の良い彼女は食事中もわたしの横にぴったりくっついて、いろいろと解説してくれる。「ねぇねぇ、中国の中秋節には何を食べるか知ってる?」わたしは答えた。「知ってるよ。月餅でしょ!」彼女は言った。「月餅もそうだけど、中秋節の食卓に欠かせない食材が他にもあるんだよ。例えばこの“モドゥ”」。(モドゥって何?)彼女が指差していたものは、ゆでただけの枝豆だった。北京語で言ったら「毛豆(マオドウ)」である。上海語で言われるとやっぱりピンとこない。
 「それからねぇ、この“ユーナイ”」。それは知ってる、サトイモだよね!「そうそう、中秋節にはアヒルの肉も欠かせないのよ」。おっしゃるとおり、食卓にはこんがりと焼かれたまるまる一羽分のダックがでん、と座している。サンへーパパってなかなか伝統を大切にする人なんだなぁと思った。今晩の食卓にあるべきものがちゃんと揃ってるもの。
 「ほら、あなたもたくさん“あづ”を食べてね」と言ってお嫁さんがわたしの茶碗にダックの肉を入れてくれる。え、今何て言った?あづを食べろって?「あづってわたしの日本語の名前だよ……」と言うと大爆笑が起こった。サンへーパパなんかビールで真っ赤になった顔で「そうかそうか、変わった名前だと思っていたけどそうか、きみの名前は“アヒル”という意味だったのかぁ、なるほどねぇ~」。そこで納得しないでほしいのである。アヒルのことを上海語で「あづ」と言うなんて知らなかった。
 この日以来、食卓にアヒルの肉が上るたび「ほら、きみの仲間だよ。たくさん食べなさい」と言われるようになってしまった。ちなみに靴のことも上海語で「あづ」と言うらしい。少しばかり発音や声調は違うけど、わたしにはやっぱり「あづ」って聞こえる。

 食事の後、「一緒に満月見に行こうよ」と誘われ、あづはお嫁さんとふたりで夜の歩道に出た。「ちょっと待って、着替えてくるから」とあづが言ったのに、「だめだめ~、キモノじゃなきゃだめ~!」彼女はゆかたを着ているあづを見せびらかしたかったのかもしれない。
 コンビニでアイスを買い、夜風の中をゆっくり歩く。この辺りは古くからの団地ばかりで、この時間になると人通りも少ない。時折すれ違う人たちが、ゆかた姿のあづを見て振り向く。「サパニン?(上海語で日本人のこと)」というささやき声が聞こえるたびに、彼女はなぜか得意そうにわたしの肩をがっちりつかんでくる。やっぱり、見せびらかしたいのだ。
 「あたしのだんなの両親、とってもいい人たちでしょう?あなたはあの家できっと楽しくやれると思う。上海のことでわからないことがあったら何でもあたしに聞いてね。今日からあたしはあなたのジエジエ(お姉さん)だから!」

 頭上では中秋の名月が輝いている。この日の満月をいつまでも取っておきたいと思った。
by azu-sh | 2006-04-13 16:01 | 「あづ」の中国ホームステイ