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上海っ子AZUが早朝に見る夢の跡。


by azu-sh
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あなたの夢は叶っていますか? <コラム>

 中国の「黄金周」、ゴールデンウィークが終った。上海のGW、あづにとっては「試練の一週間」である。なぜかというと、ただでさえ人があふれているこの大都市に国内外各地からの旅行客がどっと押し寄せ、市内が大変な混雑に見舞われることになるからだ。地下鉄では普段以上に揉みくちゃにされ、何を買うにも長い行列に並ばなければならず、観光地に行っても人の頭しか見えない。この時期ばかりはさすがのわたしも「出かけよう」という気になれない。
 そこで今年のGWは友達とゆっくり語り合うために時間を使うことにした。中でもぜひ紹介したい人がいる。あづが上海で知り合った“小学生友達”の一人で、名前は「陽陽(ヤンヤン)」とでもしておこう。陽陽は12歳の女の子。「あづさん、GW空いてますか?」というメールが来たのは連休に入る直前のこと。「もし時間があったら一緒に遊びたいなと思って」。四月に初めて知り合って以来、会うのは二回目だった。

 わたしよりも背の高い陽陽は、初夏らしい白スカートをはいてやってきた。先月知り合った時は、初対面だというのに三時間くらい立て続けにしゃべった。どこか、あづとフィーリングが似ているのだ。まるで12歳の頃の自分と話しているような錯覚に陥る。あづの好きな話題で思いきり語れる、稀有な小学生である。彼女はわたしに聞きたいことがたくさんあったらしく、ケンタッキーに入っても地下鉄に乗ってもほとんど休まずに話し続けた。
 「あづさん、わたし最近考えていることがあるの。オトナはいろんな“正論”をわたしの前に置いて、『これが正しいんだよ』と言って受け入れさせようとする。でもその後で今度は別のオトナがやっぱり同じように『これこそ真実だよ』と言ってさっきとは全然違う“正解”をわたしの前に置くの。わたしは一体どうやってその中の本物を見分けたらいいの?」
 陽陽のジレンマはあづにもよく理解できた。たぶん彼女の今の年齢と同じ頃、あづ自身「真理」について考え始めたからだ。「12年しか生きていない子供の分際で大人の意見を疑う気か。子供に何が判断できる?」と言われそうだが、わたしは善悪真偽の交じり合った情報社会の中で「本物」を見分ける力がほしかっただけなのだ。きっと陽陽もそうに違いない。
 「この間わたしがバスに乗っている時、ホームレスの人が乗ってこようとしたの。運転手さんはすごい剣幕でその人を怒鳴りつけて、乗せようとしなかったんだ。罵倒し続ける運転手さんの言葉があまりにひどくて、わたしは聞いていられなかった。どんな立場の人にだって自尊心あるのに。あなたにそこまで言う権利はない、と抗議したかったんだけど勇気がなくて結局何も言えなかったの。ねぇあづさん、わたしはどうすればよかったんだと思う?」

 彼女は上海の中心地からバスで一時間ほどかかる郊外に住んでいる。そのバス停まで送っていった。先発のバスは既に満席だったので、後続のバスに乗ることにした。
 「あづさん、子供の頃の夢って何でしたか?今、それが叶っていますか?」
 陽陽はバスに乗る前、振り返ってわたしにそう聞いた。とても一言で答えられる質問ではなかった。この町にも「真理」を模索している小さな女の子がいる。あづの親愛なる友・陽陽には、ぜひ広い世界を見て確かな判断力を養い、自分の夢を叶えてほしい。バスに乗り込む彼女に手を振って見送りながら、あづは久しぶりに空を見上げたくなった。

 五月の上海は、思いのほか陽がまぶしい。
by azu-sh | 2006-05-08 14:29 | 「あづ」の保存版上海日記